『シティ・オヴ・グラス』
- 2008/09/05(金) 04:18:27
柴田元幸さんの影響で、とうとう(?)ポール・オースターに手を出してみました。
今後のエントリーの並びは一応三部作の出版された順としますが、自分は 鍵→グラス→幽霊 の順で読みました。三部作といってもこれの場合は時系列が重要なのではないので、訳者の柴田元幸さんも言っているように、順番通りに読む必要性はまったくないといえるでしょう。とはいえ、せっかく三作とも読み終わってから感想を記すなら、順番通りに書いた方がいいかなと思いましたので、このような形式でいきたいと思います。
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この『シティ・オヴ・グラス』は、探偵小説家である主人公クィンが、探偵事務所への間違い電話からある人物の見張りの依頼され、その依頼を実際の探偵のフリをしてクィンが面白半分に受ける・・・というもの。
この筋書きだけを見るとミステリー小説に見えるかもしれませんが、事件らしい事件がおきず、むしろ主人公の方が「事件」となってしまうところに、この小説の面白さと恐怖、あるいは何とも言いがたい深みがあるのだと思います。
それと、今作は他の二作と比べると、コミカルさと知識量の要素が際立っているように感じました。例えばピーター・スティソン親子はそれぞれ別様に狂っていて、どちらも違った面白さがあります。そして、探偵の名前にそれを使うのか!というオースターのセンス。
知識量の関して言えば、親父の方のピーター・スティルソンの論文や思想(言語論)などは難しすぎず、かといって軽薄に過ぎない程度で書かれていて、これもまた興味深い内容となっています。あとはクィンと探偵と間違われた男の間でのドン・キホーテに関する対話。自分は『ドン・キホーテ』は未読で概要を少し知っているだけですが、この二人は出会いそのものが面白く、正直この時になぜこんな会話をしているんだ・・・?という気持ちになりました笑
オースター作品は英語が簡単で綺麗という話を聞いたことがありますが、翻訳された文体も非常に洗練されていて読みやすかったです。しかし、そのせいもあってか、この小説がもつ深さについてなかなか言語化しづらい印象を抱きました。これは単純に自分の力不足なのかもしれませんが・・・。
この『シティ・オブ・グラス』では、探偵小説家が実際に探偵になるとする、自身の小説への投影が描かれています。それは脆くも挫折するわけですが、オースター自身が登場することからも、ここはポイントになるのではないかと思います。つまり、小説家は小説の登場人物になれない、そしてましてや物語の中になんて入れないのだ、と。最終的に赤いノートを手にした人物がこの物語を再現したという終わり方にもメタフィクションのやり口を感じました。
そうした外部からの見方ではなく、小説内部の主人公クィンに焦点を当てると、これは完全に狂った(あるいは狂わされた)一人の不幸な男の顛末としかいいようがないでしょう。
この小説は多くを謎のままの形で残しています。その謎に囲まれ、人生を狂わされた(しかし自ら介入して狂った)男、クィン。彼は妻と子に先立たれ孤独の身であったわけですが、彼にはもともと拠り所となる生活がなかったと言えます。探偵小説家という職業も、本人は大して愛着も情熱も感じていません(むしろ、作中で失望を抱かされることにも・・・)。
そんな彼が飛びついた依頼。かつて息子を虐待した男、ピーター・スティルマンの尾行。しかし、その依頼も結局は、「空虚」なものにすぎず、あげくのはてにクィンは住居を始めとする何もかもを失います。
クィンのアイデンティティーとは、存在とは、いったい何であったのか・・・。
このニューヨーク三部作では人が「書く」こと、という大きなテーマが置かれていると言われています。
『シティ・オヴ・グラス』の主人公のクィンは探偵小説家ですし、『幽霊たち』のブラックは毎日何かを書いています。そして、『鍵のかかった部屋』では蒸発したファンショーが小説を残していて・・・という始まり方をしていることからも用意に窺える通りです。
そして、この見解を元に少し偏った見方をするなら、この小説は、「書く」ことを無用に使い、ましてや「書いた」ものへと自己を投影したクィンへの、制裁とも言えるようなストーリーとなっているのではないでしょうか。
探偵小説を書くことを放棄し、その結果、最終的に路上暮らしとなった彼は「赤いノート」に日々の出来事・思索を記し、誰かがそれを編集したのがこの物語となり・・・。
この最後の部分はオースターの『ドン・キホーテ』論と繋がっていますよね。
でも、さすがにこの読み方は偏りすぎですね・・・。
ともあれ、今作はミステリー小説の皮を被った奇妙な物語として、読んだ者に多くの「?」を残すと同時に、語りえない魅力に溢れた作品だといえると思います。
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- From: バックドロップキックス |
- 2009/08/09(日) 23:05:57
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